表現の曖昧さを減らすために

尾崎 浩司

比例について

xを増やすとyが増える結果を得たとしましょう。これをそのまま結果や結論に書いていませんか?「xを増やすとyが増える」というのは、実に曖昧な表現です。

それでは、この結果を「yx は比例の関係にある」と表現すれば、大丈夫でしょうか?つぎの点で、この表現にも問題があります。

1.「比例」ということばの使い方

「比例」ということばの標準的な使い方は「?は○に比例する」です。それでは、「xyに比例する」と言えばいいのか、それとも「yxに比例する」と言えばいいのか、どちらでしょう?変数には独立変数と従属変数があります。実験では自分が変えた量が独立変数、それに応じて変わった量が従属変数です。xを増やすとyが増える結果を得たのですから、xは独立変数、yは従属変数ということになります。したがって、「yxに比例する」と表現することになります。

2. xを増やしてyが増えても、yxに比例しているとは限りません

 

yx 比例しているのは、yxの関係を1mm方眼紙に図で表わしたとき、原点を通る直線で表わされた場合に限ります(図a))。原点を通らず、直線で表わされた場合、「yx に比例する」とは表現しません(図b))。このような場合、「yx1次関数である」と表現します(図a)も同じ表現が使えます)。

直線関係で近似できる場合は、直線の方程式を求めましょう。そうすれば、yの増加の仕方を限定したことになりますから、近似が有効な範囲に限り曖昧さは消えます。直線の方程式を求めるときは、図から勾配(傾き)aと切片bを求めます。そうすると、直線の方程式はと書けます。ただし、実験では変数をxyで表わさないので、物理量を表わす変数にします。たとえば、独立変数が電流のときはxではなくIに、従属変数が磁束密度のときはyではなくBとします。

さて、xを増やしてyが増えたとき、yxの関係を1mm方眼紙に図で表わすと、いつでも図a)や図b)のように表せるでしょうか?xを増やしてyが増えたとき、次のような図になっているかもしれません。

yxがこういう関係にあるときは、「yxに比例する」とは決して言えません。

1mm方眼紙で、この曲線の関数形を求めることは困難です(事実上、不可能です)。こういう場合は、両対数グラフ用紙あるいは片対数グラフ用紙を使います。

もし、両対数グラフに描いたとき、直線の関係になっていることが判明し、グラフの傾きkk=2.5という値であったとします。このときは「yx 2.5乗に比例する」ということができます。両対数グラフ用紙に描いたとき、曲線であったら、こういうことは言えません。また、片対数グラフ用紙に描いたとき、直線の関係になっていることが判明し、グラフの傾きaa=0.37という値であったとします。このときは「yに比例する」ということができます。片対数グラフ用紙に描いたとき、曲線であったら、こういうことは言えません。線形グラフ(1mm方眼紙)でも両対数グラフでも片対数グラフでも直線関係が得られない場合もあります。そういうとき関数形を知るための1つの方法に、複数個の関数を仮定して、もっとも実験結果に近づく関数の組み合わせを探るやりかたがあります。手間ととき間がかかりそうですね。その通りです。この場合は大変な作業になります。

このように単に「xが増えるとyが増加する」といっても、様々な増加の仕方があるので、曖昧さが残ります。まずはyxの間の関数形を求めましょう。それによって、yの増加の仕方の表現に曖昧さがなくなります。

反比例について

今度はxを増やすとyが減る結果を得たとしましょう。こういうとき「yxは反比例する」と反射的に表現していませんか?この表現にも問題があります。

1.「反比例」ということばの使い方

「比例」と同じように、「反比例」ということばの標準的な使い方は「yxに反比例する」です。

2. xを増やしてyが減っても、反比例とは限りません

力学的エネルギーの実験を例にあげましょう。力学的エネルギー保存則は運動エネルギーと位置エネルギーの総和が一定になることをいいます。この保存則を確認したとき、運動エネルギーが増加すると位置エネルギーが減少しているので「位置エネルギーは運動エネルギーに反比例する」あるいは「運動エネルギーは位置エネルギーに反比例する」と表現してしまいがちです。これはまったくの間違いです。「一方が増えたとき他方が減ることを反比例という」と思っていること事体が誤りなのです。変数yxの関数でまたは (0でない定数)で表わされるとき、「yxに反比例する」といいます。和が一定になるときは「和が一定になる」でいいのです(和が一定にならない結果が得られたときは、「和は一定にならなかった」と言います)。また、図に惑わされて、yxに反比例すると勘違いする場合があります。たとえば1mm方眼紙上の

という曲線を見て、すぐに「yx に反比例する」と判断していませんか?こういう図を反比例のグラフだと思っているのなら、これも大間違いです。もう一度「反比例」ということばを振り返ってみましょう。 (一定)のときに限って「yxに反比例する」といいます。そして、そのときのグラフは双曲線になります。上の図でxy の積をとって本当に一定になっていますか?そもそも目盛りもないのに、そんなことがいえるでしょうか?また、仮に目盛りが入っていたとしても、曲線が双曲線の一部なのか、大きな円の一部なのか、放物線の一部なのか、判断できますか?できませんね。こういう理由で、上のようなグラフから「yxに反比例する」ということはできないのです。ではどうするか?この場合も、上に述べた両対数グラフ用紙や片対数グラフ用紙に描いてみると、(よほど複雑な場合を除いて)関数形が明確になります。もし両対数グラフ用紙に描いてみて、勾配k=-1の直線を得たのであれば、このときに限り「yxに反比例する」ということができます。勾配が-1.7になったときは、「yx-1.7乗に比例する」と表現します。片対数グラフに描いたとき、直線になって、直線の傾きaa=-0.0050になったときは「yに比例する」と表現します。どちらの対数グラフも、1mm方眼紙上に描いた曲線の関数形を確定してくれます。まずはyxの間の関数形を求めましょう。それによって、yの減少の仕方の表現に曖昧さがなくなります。